【NHK集金人 非弁行為とは】弁護士法違反でエヌリンクス(会社)提訴してみた【深夜遅くしつこい受信料徴収】

当職(弁護士 山本麻白)は、株式会社エヌリンクス(nリンクス)の元社員より依頼を受けた代理人弁護士として、株式会社エヌリンクス(代表取締役 栗林憲介)に対し、東京地方裁判所に令和2年11月19日付で訴訟提起したことをお知らせします。

訴状の全内容は【NHKから国民を守る党 立花孝志氏のサイト】にアップロードされています。

今回の記事では、訴状の内容について、特に当職の主張する「NHK委託会社の集金業務の弁護士法違反」に焦点を当て、わかりやすく解説したいと思います。

訴訟について

当事者たち

・株式会社エヌリンクス(被告)

・・・NHKより、戸別訪問による受信料集金業務等を委託されている会社です。

・元集金人(原告)

・・・株式会社エヌリンクスで、今年10月まで勤務していました。

特に、年単位の受信料長期滞納者に対する戸別訪問による集金業務(以下「再開業務」といいます)に従事していました。

事案の概要

雇用主(被告)は、社員(原告)と労働契約を結ぶにあたって、

従業員に対して「違法行為に従事させない義務」を当然に負います(労働契約法3条4項)。

今回の事案は、被告の集金業務が弁護士法第72条に違反することから、

被告が原告をそのような違法な業務に従事させたとして、

上記労働契約上の義務を怠ったこと(債務不履行)による損害賠償を請求するものです。

NHK集金人の受信料徴収の弁護士法第72条違反(非弁行為)について

今回の訴訟で予想される最大の争点は、被告の集金業務が弁護士法72条に違反するかどうか、という点です。

弁護士法72条に違反する行為は「非弁行為」といい、

昔から無資格者の借金の取り立てや交通事故の示談交渉、地上げ屋などが弁護士法72条違反とされてきました。

弁護士法72条違反の要件は、下記の通りです。

①弁護士又は弁護士法人でない者が
②報酬を得る目的で
③他人の
法律事件に関する
法律事務
⑥事業として行うこと。
(⑦他の法律に、業務を許可する特別な定めの無いこと)

被告の業務は、NHKとの業務委託契約に基づいて行われるものですので、①②③⑥⑦は明らかとして、解説を省略します。

問題は、下記の2点です。

・被告の集金業務は、法律事件を扱うか?
・被告の集金業務は、法律事務か?

特に、今回の記事では、簡略化のため、集金業務のうち、原告の従事していた「再開業務」に絞って解説・検討をします。

1.再開業務が、「法律事件」を扱うかどうか

法律事件とは

・・・「法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、または新たな権利義務関係の発生する案件」

とする判例や、

「実定法上事件と呼ばれている案件及びこれと同視しえる程度に法律関係に争いがあって事件と表現されえる案件

とする判例があります。

つまり、受信料支払義務の内容について、

NHKと契約者の間に、争いや、はっきりしない点があり、事件と表現されえる案件であれば、「法律事件」です。

 

再開業務について検討すると、

まず、総務省の資料に、「『法律事件』:…単に『払わない』でも紛争性が顕在化」しているとの記載がある通り、

NHKから請求書が送付されているにもかかわらず、年単位で長期滞納しているという状況自体が、

「(支払義務に関する)NHKと契約者の間の争いや疑義があり、事件と表現されえる案件」であると言えます。

現に、年単位の長期滞納者には、NHKから多くの訴訟が提起されており、「事件」と表現されえる状況であることがわかります。

 

もっとも、上記事情に加え、近年ではNHKから国民を守る党(N国党)が議席獲得する等、

多くの世帯が受信料支払義務について疑問を抱いているという背景事情もあります。

(受信料を巡る様々な見解は、wikipedia の解説に委ねます)

 

このような状況下での再開業務は、明らかに「法律事件」を扱うものです。

2.再開業務が、「法律事務」かどうか

法律事務とは

・・・判例では、一般的に

「法律上の効果を発生・変更する事項の処理

とされています。

一方、他の裁判例で、

「…適切な判断…を必要とするから、…弁護士の職務の範囲に含まれる」(大阪高判昭43・2・19)

「法律事務…とは…法律事件についてその紛議の解決を図ることを謂い、鑑定、代理、仲裁、和解等がその例として設けられている」「法律事件紛議の解決は自らの意志決定によつて法律事件に参与し、右のような手段方法を以て自らの判断で事件の解決を図ろうとすることを謂うと解される」(松山地判昭52・1・18)

という基準が採用されているものもあります。

要するに、

法律事件における、法律上の効果を発生・変更する事項について、『判断』を要する行為であれば「法律事務」である(※注意 後述)

と言うことができるのではないでしょうか。

 

例えば、 極端な例ですが、単に請求書の封筒に切手を貼る作業というのは、

「法律上の効果を発生・変更する事項」に関して、「判断」を要しません。

判断を要するとしても、せいぜい、どこに切手を貼るか判断する程度のものであって、紛争当事者の利害に関する判断ではありません。

したがって、法律事務ではありません。

 

再開業務について検討すると、

例えば、集金人は、支払再開の難しい契約者の場合は、「残高のない口座の登録」を案内していたようです。

これは、上記1.の通り「法律事件」に関するものであり、

同時に「受信料債務の承認」という法律上の効果を発生させるものです。

そして、契約者との話し合いの中で、どのくらいまで支払い再開が難しい場合に「残高の無い口座の登録」を勧めるかは、集金人の判断によるものです。

(被告側は、「集金人は、あくまで契約者からの自主的な申し出を取り次いでいるに過ぎない」と主張するかもしれません。

しかし、残高の無い口座の登録を契約者側から自主的に申し出るとは通常考えられません。)

したがって、上記行為は「法律事務」です。

 

他にも、被告はNHKより契約・集金業務を「包括的に委託」(業務委託仕様書にある文言)されていたように、

業務遂行上、NHKより一定の裁量を与えられていました。

その裁量とは、具体的には下記のようなものですが、

これらは全て「法律事件における、法律上の効果を発生・変更する事項について、『判断』を要する行為」であって、

法律事務であると考えられます。

・契約者から反論があった場合のトーク(アウト返しトーク)
・受信料の一括払・分割払・一部支払といった支払条件の相談
・口座振替、継続払クレジットカード、振込用紙、現金支払といった支払方法の相談
(また、NHKが受信料の免除を認めていないにも拘らず、法定の延滞利息の免除も行われていたようです。)

 

さらに、「滞納者に対し、どれくらい繰り返し訪問を行うか?」「どれくらい深夜に訪問を行うか?」といった判断を行っていたことも、

上記行為が法律事務であることを補強する事実になるものと考えられます。

 

(※注意)ネットを見ていると、社労士や行政書士の見解で、「法律事務」=「法律行為」(法律行為:意思表示に基づいて法律効果を生じさせる行為のこと)であるとする見解が見つかりました。
示談書作成業務や交渉業務は「事実行為」(法律行為以外の行為)であって、「法律事務」ではないため、弁護士でなくとも代行することができるという見解です。
しかし、上記見解は明らかに誤りです。
裁判では「法律事務」は広く解釈される傾向にあり、事実行為であっても法律事務であるとする裁判例が多数存在します。
語義からしても、法律行為の要素は「意思表示」であり、意思表示自体は、契約書への署名捺印等、瞬間的に完了するものです。
弁護士法72条の趣旨が、このように瞬間的な業務を無資格者に対して禁止するものとは到底考えられません。
(実際、弁護士業務の多くは「事実行為」です。)

また、総務省の資料においても、「事実行為」という言葉が出てきます。
「①事件性及び紛争性のない案件において、法律事務に該当しない事実行為として行う事務」は民間委託可能とされており、紛争性がない場合に「事実行為として」未納事実を告知することなどは法律事務に当たらないとされています。
一方で、「事件性及び紛争性を有する診療債権については、未納事実の告知等であっても法律事務に該当する蓋然性が高い」とも記載されています。
上記文脈から考えるに、総務省の資料において「事実行為」と記載があるのは、「法律事務」=「法律行為」(「事実行為」であれば「法律事務」ではない)との意図からではなく、
単に「法律事務に該当しない事実行為として行う事務」を「事実行為」と省略して記載しているに過ぎないことがわかります。

このように言葉の使い方が論者によって異なるというのは法律分野ではよくあることですが、総務省の資料も、「事実行為であれば法律事務ではない」という誤解を招きかねない表現を用いており、注意が必要と思いましたので、ご紹介させていただきました。

まとめ

以上のことから、再開業務は、弁護士法72条に違反する非弁行為であるというのが当職の主張となります。

 

そもそも、弁護士法72条が制定された目的は、次のようなものです。

「弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、ひろく法律事務を行なうことをその職務とするものであって、
そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ、かつ、その職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服すべきものとされるなど、諸般の措置が講ぜられているのであるが、世上には、このような資格もなく、なんらの規律にも服しない者が、みずからの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とするような例もないではなく、これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公正かつ円滑ないとなみを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、同条は、かかる行為を禁圧するために設けられたものと考えられるのである。」 (最大判昭46・7・14)

つまり、厳格な資格要件・規律の下で職務を行う弁護士に比べ、何等の規律もない無資格者が法律事件に介入すると、国民の公正な法律生活を妨げ、世の中の法律秩序を害することになる、との考えのもと、弁護士法72条が制定されたと考えられます。

 

NHK集金人の業務はどうでしょうか。

①NHKが集金業務の民間委託を開始してから,消費生活センターへのNHK戸別訪問に関する相談・苦情は年々増加(近年は減少傾向)。
②NHK受託会社の戸別訪問に関連した犯罪事案が多く知られている(顧客情報の不正流出、窃盗罪、恐喝罪、傷害、わいせつ事案等)。
③Youtube等でも集金人の強引な手法が取り沙汰され、N国党が議席獲得する等、国民からの批判を浴びている。

↑のような状況こそが、

「法律生活の公正かつ円滑ないとなみを妨げ、ひいては法律秩序を害する」ものとして、

弁護士法72条によって禁止すべきと想定されたものではないではないでしょうか?